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福岡高等裁判所 昭和56年(ラ)49号 決定 1981年4月28日

抗告人 A

主文

原審判を次のとおり変更する。

福岡県○○児童相談所長Bが事件本人Cを養護施設に入所させることを承認する。

理由

本件抗告の趣旨は、「原審判を取り消す。抗告費用は福岡県○○児童相談所長Dの負担とする。」との裁判を求めるというにあり、その理由は別紙(二通)記載のとおりである。

そこで検討するに、当裁判所も、保護者である抗告人に事件本人を監護させることが著しく事件本人の福祉を害すると判断するものであり、その理由は、原審判二枚目裏九行目の「女中奉行」を「女中奉公」と、同三枚目裏一二、一三行目の「月二万円の援助と前夫からの事件本人に対する月三〇〇〇円の養育で」を「月約二万円の援助で」と、同四枚目裏九行目の「除々に」を「徐々に」と各改めるほか、原審判が説示するところと同一であるから(ただし、原審判五枚目表一三行目から同六枚目表三行目までの説示を除く。)、これを引用する。

抗告人は、抗告人の事件本人を育てるうえでの労苦を斟酌するべきであると主張するところ、事件本人を育てるうえで抗告人がそれなりの苦労をしたことは認めることができ、その心情も理解できないわけではないけれども、原審判認定の諸般の事実に照らせば、前記の判断は左右されない。

ところで、原審判は、その主文において、福岡県○○児童相談所長が事件本人について児童福祉法二七条一項三号の措置をとることを承認しているのであるが、右主文の示すところは、単に右児童相談所長が求めている事件本人を養護施設へ入所させる措置の承認をなすにとどまらず、同号の規定するいずれの措置をとることについてもこれを承認する趣旨のものであることが、原審判の理由説示(原審判五枚目表一三行目から同六枚目表三行目まで)により明らかである。しかしながら、同号に定められた措置はかなり多様なものであり、いずれの措置がとられるかによつて児童やその親権者、後見人らに対して生じる影響も自ら異なるのであるから、同法二八条一項にいう家庭裁判所の承認が、知事(ないしその事務の委任を受けた児童相談所長。以下同じ。)においてかかる多様な措置のいずれをとるかについてすべて承認するようなものであるということはできない。のみならず、本件においてもそうであるように、知事は同法二七条一項三号のいずれの措置をとるべきかを判断し、当該具体的な措置について家庭裁判所に対しその承認を求めるのが原則であつて、その当否について親権等の後見的機能を果すべく調査機構を備えた家庭裁判所の審査が及ばないと解する理由はない。しかも、家庭裁判所が最も適切であると判断した措置と、承認を求めて申し立てられたそれとが異なる場合には、釈明権の行使によりその申し立てを変更する余地があるほか、具体的な措置がとられた後に事情の変更により新たな措置が必要とされるのであれば、当該新たな措置につき知事において改めて承認の申し立てをなせば足りるものである。

そうすると、本件においては福岡県○○児童相談所長が求めている事件本人を養護施設へ入所させる措置をとることにつき相当としてこれを承認すべきところ、これを超えて同児童相談所長が事件本人について児童福祉法二七条一項三号の措置をとることにつき承認した原審判は、その限りで不当というべきであるから、これを変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 美山和義 裁判官 前川鉄郎 川畑耕平)

別紙 抗告理由書<省略>

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